世界のあちこちで、自分や家族が食べるために、今日も料理をしています。「食」は人生を豊かにするとっても大事な営み。そうわかっていても、忙しい毎日の中で、「料理が面倒……」と感じることがあります。
この気持ちとの向き合い方について、日本から少し離れて、世界の国々の自炊事情を知ると何かヒントを得られるのでは?
そこで、「自炊は自分の食事を作る行為だけに留まらず、人生をより豊かにするための手段である」をモットーに、誰にも自炊を楽しんでもらうために発信している自炊料理家の山口祐加さんにお話を聞きました。
山口さんは自分の料理の幅を広げるため、1年をかけてさまざまな国に滞在。現地で暮らす人が普段食べている食事を共にし、自炊という観点からみんなの「ふつうのごはん」を知り、その工夫や暮らしぶりを取材してきました。以前にもポルトガルで見聞きしたことを伺いましたが、今回はそのタイ&ラオス編。
ヨーロッパや南米を旅してきて、最後に訪れたのが東南アジア。食事や自炊に対しての見方が日本とはどう違ったのか、教えてもらいました。

インタビューした人
自炊料理家
山口 祐加さん
自炊する人を増やそうと、料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信など、幅広く活動中。著書は『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。
- タイは外食のレベルが高かった!
- バンコクでは「自炊の習慣がない!?」けれど…
- タイのお隣・ラオスは炭火の調理が主流
- 「献立」に悩むのは、選択肢が多いから
01
タイは外食のレベルが高かった!
——まずはタイのことから聞かせてください。訪れてみて、どんな印象を受けましたか?
山口さん:首都・バンコクと、北部に位置するチェンマイに滞在しましたが、どこで外食をしても、とにかくおいしかったです!これまで旅したヨーロッパや南米は、お店による当たり外れが大きかったので、余計に驚きましたね。
——どんなメニューを食べましたか?
山口さん:トムヤムクン、ガイヤーン、パッタイ、グリーンカレー、カオマンガイ、ソムタムなど、日本でも有名なタイ料理は一通り食べました。


山口さん:味付けは、全体的に酸っぱくて、甘くて、辛いものが多いですね。特に辛さは、現地の人が「辛くないよ」と言っているものを注文しても辛かったです(笑)。ちなみに、日本で食べるタイ料理は本当にレベルが高くて、「現地と変わらないな」と思うものも多かったです。
あとは、屋台もたくさんあって、焼き鳥屋さんのようなお店をよく見かけました。野菜や肉、魚などを串に刺して焼いたものを売っています。素材そのものを生かした味でおいしかったです。

02
バンコクでは「自炊の習慣がない!?」けれど…
——タイの自炊事情について発見はありましたか?
山口さん:バンコクに限って言えば、キッチンがない家も多く、自宅で料理をする習慣があまりないようです。理由の一つが、渋滞のひどさ。出先から帰ろうとしても、家に着く時間がわからないのが普通みたいです。帰宅してからだと食事を用意する時間がなかったり、家族が揃う時間が読みにくかったりする。だから、惣菜を買う人が多いそうなんです。
それに、パッタイやソムタムのようなタイ料理は、必要な材料が多く、作る手間もかかります。家庭の味、というのがあるのかと思いきや、「単身世帯や2人暮らしの家ではわざわざ作らない」と聞きました。
一方で、団地に住んでいる料理上手な人が近所の人におかずを販売しているといったようなスモールビジネスもあるようです。作る側は収入にもなりますし、買う側は家庭的な料理が食べられるし、合理的なシステムですよね。

——バンコクではキッチンがない家も多いとのことですが、他の地域はどうでしょうか?
山口さん:郊外の方ではキッチンはあるのですが、日本人がイメージするようなものではなく、半屋外に設けていたり、住居とは別にキッチン用の小さな小屋があったりするんです。タイ料理は香辛料をたくさん使うので、家の中に匂いがつかないようにするためのようです。

タイに住む知り合いは、それを「タイキッチン」と呼んでいました。実際に「料理は外でするもの」と思っているタイ人も多くて。バンコクに長く住む方がおっしゃっていたのは、昔一緒に住んでいたルームメイトが、インスタントラーメンを作るだけでも、ガスコンロと鍋をベランダに持っていくそうです。常夏の国ならではでもありますね!
——タイのご家庭にも滞在されたそうですが、味の素グループ製品は見かけましたか?
山口さん:「味の素®」はいたるところで見かけました!お店ではもちろん、タイ北部に住むカレン族やタイルー族の家にお邪魔したときもキッチンにありましたよ。
タイルー族の家では、麺料理を食べたのですが、それがすごくおいしくて!ゆでたたまご麺に油をまとわせて、刻んだエシャロット、とうがらし、ピーナッツ、パクチー、ライム、砂糖、塩、ナンプラー、お好みで「味の素®」をかけていただきます。日本に帰ってきてから再現しましたが、すごく美味しかったです。
ほかにも、タイ味の素社が販売している風味調味料「Ros Dee®」(ロッディー)もよく使われていて、炒め物やチャーハンに入れていました。

03
タイのお隣・ラオスは炭火の調理が主流
——タイの北側に位置するラオスにも旅をされたそうですが、ラオスの自炊事情はいかがでしたか?
山口さん:ラオスは自炊している人が多かったです。ラオスもタイと同じくキッチンは外にあるんですが、その理由は違っていて、ガスコンロではなく炭火で調理するのが主流だから。

山口さん:一見不便そう……と思うかもしれませんが、ラオスの人は炭火で餅米を炊いたり、野菜をあえて焦がして焼いたりしていて、それが一番おいしいと考えているみたいです。炭火だからこそできる料理に価値があると思っているので、ガスコンロの利便性にはあまり魅力を感じていないようです。暮らしの中で何を価値に感じるかによって、「便利」の尺度は変わってくるということですね。
日本での炭火調理は、日常的な調理法とはかけ離れ、レストランなどで食べる特別なイメージがありますが、ラオスでは炭火調理が日常です。経済は圧倒的に日本の方が進んでいますが、日々の食事に関してはプリミティブで本来の料理のおいしさが残っているラオスの人たちの方が豊かなのかもしれません。
——ラオスの家庭での料理について教えてください。
山口さん:火入れ方法は炭火ですが、メニューは、スープ、炒め物、副菜、餅米といったラインナップで、日本とも近いです。ラオスの人は、左手に硬めに炊いた餅米を持って、そこに少しのおかずをのせて食べるのが一般的です。

山口さん:日本もですが、アジアを巡っていて感じたのは、料理の品数が多いのが共通していますね。そこはヨーロッパとは違うポイントでした。
04
「献立」に悩むのは、選択肢が多いから
——タイやラオスを旅してみて、あらためて日本の自炊に対して考えるところはありましたか。
山口さん:自炊する際に献立で悩むというのは、日本特有と言っていいかもしれないと思いました。
たとえば、タイでは外食のハードルがすごく低いし、コロナ禍を経てデリバリー文化も発達しています。ラオスは基本的にラオス料理を食べていて、パスタといった西洋料理の選択肢が元からないんです。それを外食することもあれば、自炊するにしてもある程度決まったものを作っているので、献立に悩むことが少ない。
一方、日本では料理本もたくさん売っていますし、テレビやネットでもいろいろなレシピを紹介していますよね。さまざまな食の情報に触れられるのはとても素晴らしいことではありますが、選択肢が多いからこそ、献立に悩んだり、自炊が苦しくなったりする側面もあるのかなと感じました。
「ふつうのごはん」である普段の自炊には、完成度は横に置いて、少し肩の力を抜いて向き合えるといいのかなと、様々な国の食卓を見て実感しています。